2011年08月18日

事故原因調査より党人事?

 先月起きた高速鉄道事故の記者会見で、名言をいくつも生み出した王勇平報道官が、停職処分を受けたと報道がありました。

 王勇平・鉄道部報道官が停職(2011/8/16 人民日報)
http://politics.people.com.cn/GB/41223/15433673.html
 「新華社英語版によると、鉄道部は8月16日、王勇平報道官を停職処分にしたと発表した」となっているものの、鉄道部サイトは全く触れられておらず。

 しっかり国内メディアに転載されているのに、英語版や海外版がソース源という中国がたまにやる謎の迂回報道は気になりますが、まずは矢面に立って失言を繰り返した報道官を切るというトカゲの尻尾きりだと、はじめは思いました。

 事故が発生してから最初の記者会見で、「全ての質問に答え、どんな厳しい質問にも逃げたりはしない」「みなさんの質問に誠実に答えていく」「皆さんには私を信じて欲しい」と大見得を切ったにもかかわらず、死者数は二転三転しましたし、技術は先進的なもので信用に足ると強弁して、微博で随分叩かれてしまいました。

 公の場から姿を消したことで解任説が飛び交い、7月29日にはわざわざそれを否定する声明が「鉄道部関係部門責任者」から出ています。

 極めつけは、なぜ先頭車両を現場に埋めたかについては「世の中の皆が知っている事故を隠蔽は出来ないのに、何故こんな愚かな質問が出るのか」と返し、「救助作業をしやすくするためだと説明を受けている」「(私が受けた説明を)信じるかどうかは自由だが、私は信じる」という名言に昇華させています。

 救助活動終了後に救助された少女について「奇跡だ」と言ってしまうなど、自分の発言がどう捉えられるかまで頭が回らない辺り、突発的な事態対処は不慣れなのだと思います。

 彼の経歴を見ていると宣伝部畑が長いのですが、こうした記者とのやり取りに離れていないのでしょう。いつもは春運(旧正月)の列車運行状況やネット交流でご高説を述べるくらいですし、報道官としてろくな教育をうけていないのだと思います。

 ところが、今回の「解任」は引責ではなく単なる目くらましに過ぎないことが分かりました。

 鉄道部「王勇平停職はデマ。待遇に変更なし」(2011/8/17 中国新聞網)
http://www.chinanews.com/gn/2011/08-17/3265021.shtml
  正常な異動であると説明する担保ですが、「不再担任」(もう担当はしない)という単語が使われているので、解任ではなく円満であると強調する狙いがあるのがわかります。

 夕方の鉄道部発表によると、王はOSJDという旧ソ連など共産圏を中心とした鉄道機構の中国側委員として、ポーランドに派遣されることが分かりました。

 左遷ではあるかもしれませんが、党内の級別(階級のようなもの)は変更しないのですから、数年後ほとぼりが冷めた頃に本国に戻されているのかもしれません。

=====

 また、7月24日以来行方不明だった張徳江副総理が、15日、16日と北京で開かれた大会に出席して、無事だったことが確認されました。

 全国和諧労働関係構築先進表彰・経験交流会(2011/8/17 人民日報)
http://politics.people.com.cn/GB/1024/15433955.html
 張徳江は同じ日程で行われた高速鉄道に関する会議にも出席し、したり顔で「検査チームは科学的発展観を実行し、実事求是の態度で」などと何事も無かったかのように振舞っています。

 国務院高速鉄道及び建設中プロジェクトの安全大検査部署動員会議(2011/8/16 新華社)
http://news.xinhuanet.com/politics/2011-08/16/c_121867945.htm
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左から駱林、張徳江、馬凱

 20日間以上姿を見せていなかったのは誰もが知っているわけですから、横にいる馬凱や、実際に現場で調査を指揮していた駱林などは「こいつ終わってるのによく出てこられるなw」とか思っているのではないでしょうか。

 この時期、「党と国家の指導者」(政治局委員以上の共産党員、全人代副委員長、全国政協副主席、中央書記処書記など)は河北省にある北戴河と呼ばれるリゾート地で休養を取るのが恒例となっています。事故現場に出向いた温家宝を除くと常務委員は23日の政治局会議から8月上旬までほとんど動態は報じられませんでした。

 やっぱりみんな北戴河に来ているんだな、と勘ぐりたくなるのはこの記事です。

 賀国強、北戴河で休養中の全国紀律検査系統先進工作者を訪問
http://politics.people.com.cn/GB/1024/15285625.html
 劉延東、北戴河全国科学技術成果巡回展を参観(2011/8/8 科学技術部)
http://www.most.gov.cn/yw/201108/t20110808_88917.htm

 かいがいしく働く党員を表彰する意味で、北戴河に避暑に来させる伝統があるそうですが、状況証拠から「党と国家の指導者」は地方トップ(薄熙来、汪洋)を除いてほとんどが集まっていたようです。張徳江も現場は閣僚級に任せ、さっさと家族を連れて避暑地に向かっていたのでしょう。

 親民のフリをする温家宝も7月29日の記者会見以降、9日の国務院常務会議まで報道が途絶えており、情けない限りです。本来なら休養など返上して事故処理にあたってしかるべき規模なのに、現場にいたのは駱林という庁の長官クラスが最高位という体たらくであります。

 「党と国家の指導者」約70名にとって、列車事故よりも来年の党人事や避暑の方が大事なのかと、図らずも露呈してしまったのですが、今のところ詰め腹を切らされたのが上海鉄道局の3人だけというのは、事故調査に対する党中央のやる気がうかがえるようです。

 ただし、張徳江に対する温家宝の厳しい批判や、いち早く姿を消したのは事実ですから、張が依然として事故処理のトップにいるのは何らかの手打ちがあったから、という可能性は頭に留めておくことにします。
posted by aquarelliste at 00:29| Comment(1) | TrackBack(0) | 高速鉄道事故 | 更新情報をチェックする

2011年08月02日

張徳江が本格的に行方不明に

 行方不明なのです。

2011080201.jpg
現場でしたり顔の張徳江さん。

前回お伝えしてから("KINBRICKS NOW" 2011年7月30日 【鉄道追突】消えた副首相の謎=温家宝の「お叱り」後消息途絶える)4日経過しましたが、張徳江さんの消息がどうやっても掴めないので、香港紙が騒ぎ始めています。

 彼の消息は事故翌日の24日に救助活動を「なかなか良い」、高速鉄道について「品質に問題はない」と賞賛したのが最後で、それ以降の動向が全く不明なのです。

 事故発生から72時間というをタイムリミットを大幅に繰り上げて救助活動を打ち切る命令を下したのは、鉄道部ではなく張徳江であり、その後伊伊ちゃんという女の子が救出されて全国の注目を集めたため、温家宝の批判も受けた今はお隠れ中という説が有力です。

 救出総指揮張徳江の行方が謎(2011/8/1 東方日報)
http://orientaldaily.on.cc/cnt/china_world/20110801/00178_010.html?pubdate=20110801
 ある鉄道部の職員が明かしたところによると、鉄道部長には捜索終了の命令を出せる権限はなく、あるとすれば現場の指揮を取っていた最高責任者の張徳江だろうと指摘。

 張徳江は指揮本部を現場ではなく、そこから遠く離れた温州繁華市区にある5つ星のシャングリラホテルに設置しており、そこで息を潜めているのではないかと思われます。

 陰謀論的に言うと、陣頭指揮をすればほんの小さなミスでも針小棒大に捉えられて足をすくわれかねず、来年の党大会で政治局常務委員への昇格を目指す張は保身を第一に考えて表に出てこないというのもあります。

 国務院事故調査チームには、いつもなら自分が担当するところ国家安全監督総局の駱淋局長を当てており、なるほどと思わせる部分もあります。この駱淋も、もう一つ何をしているか報道が少ないのですが。

 ただし、既に先頭車両を埋めた後に掘り返したり、救助活動を切り上げるなど大失点をしており、保身どころではありません。この陰謀論は成立しないのではないでしょうか。

 鉄道部という日本でいえば「省」に当たる部門への調査に、「庁」である安全監督総局の局長がどこまで深く入り込めるのかという疑問もあります。それ以外の顔ぶれを見ても、監察部、鉄道部、全国総工会、事故が起きた浙江省の副部長級(副大臣級)と「レベルが低く」、最初から調査に本腰を入れていなかったという謗りは免れないでしょう。

 これだけ国際的に注目を集め、本気で事故を調査するつもりなら、少なくとも鉄道部より上の人間が総指揮に当たるのが筋。張徳江ならこれまで特大クラスの炭鉱事故で救助の陣頭指揮を取った経験もある安全生産と鉄道担当の副総理でもあり、政治局委員でもあります。レベルも申し分ありません。

 国務院に真剣に解決しようとする気が無いのか、張徳江に任命権があって張にやる気がなかったのかで、この調査チームの「レベルの低さ」の意味も変わってくるでしょうが、そこを判断する材料は今のところありません。

 それにしても、「党と国家の指導者」の1人である張徳江が、温家宝から直直接叱責を受け、温家宝が現地に駆けつけても顔を見せないだけではなく、その後も一貫して行方不明というのは異常事態です。

 全責任を張徳江に押し付けて逃げ切るという、まさかのオチが用意されているのでしょうか。
posted by aquarelliste at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 高速鉄道事故 | 更新情報をチェックする

2011年07月31日

中国メディアがついにキレた

 昨日の夜にいつもの中国メディア巡回をしていたら、新華社、人民日報はもちろん、ポータルサイトなどの巡回ルートのほとんどから温州列車追突事故の報道が一気に無くなっていることに気付きました。

 先に「ハートフルな報道の強化」を打ち出して失敗した宣伝部が、初七日を迎える29日に事故報道の抑制にかかった、("KINBRICS NOW" 7月30日【鉄道追突】報道規制に反抗した民間メディア=日本人が知らない報道の多様性―北京で考えたこと)ことを知りました。

 禁令が出たのが29日午後。30日分の報道も用意していた新聞は事故関連の紙面を直前差し替えるハメに。『21世紀経済報道』、『中国経営報』、『新京報』(北京)、『銭江晩報』(浙江)、『華商報』(西安)などが被害に遭っています。

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 事故が起きた浙江省の『今日早報』だけではなく、『河南商報』(河南)、『上海青年報』(上海)『廈門商報』(福建)など一部メディアは一面を使って宣伝部に反旗を翻し、抗議する姿勢を見せています。

 その中でも異彩を放っているのが、コラムを書かれたimajunさんが記事で紹介されている経済観察報の「做有良知的媒体」(良識あるなメディアたれ)と題された記事で、事故後の当局寄り報道に対する記者の怒りが伝わってくるいい文章です。

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 同紙は「温州に奇跡はない」という特集を7面に渡って組む力の入れ具合で、「鉄道部解体」「鉄道部は何を隠しているのか」「鉄道部の心は鉄か」など鉄道部批判を展開しており、上述のコラムもこの特集の最終ページに組み込まれています。

 ところが、紙面のPDF版は削除されており、サイトからも記事にたどり着けませんでした。他紙のサイトからも事故関連の記事はきれいに姿を消しています。私は日本にいて確認は出来ないのですが、紙面からも消えているはずです。

 28日の温家宝講話では「事故調査は透明に、社会と群集の監督を受けながら情報を公表していく」と約束されました。

 ところが、宣伝部からは全く逆の姿勢が打ち出されています。それに殆どのメディアがなびいているわけで、宣伝部よりずっと上位にいるはずの温家宝の口約束より、直接の監督機関でお偉いさんの人事権を握る宣伝部の指示を重視している表れなのでしょう。

 そんな息苦しい中でも、禁令などなかったかのように事故報道を続けているのが、南方都市報と隔週刊行の雑誌『財経』であります。

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 クソッたれな「奇跡」(2011/7/31 南方都市報)
http://news.gd.sina.com.cn/news/2011/07/31/1164938.html

 40人が亡くなった悲惨な事故とその後の鉄道部のお粗末な対応には、我々はこの言葉を送りたい。「クソッたれ!」
 鉄道部が引き裂いた、国家の純真(2011/7/31 南方都市報)
http://nf.nfdaily.cn/nfdsb/content/2011-07/31/content_27508038.htm

 (今回事故で両親を失った)伊伊は絶対公開の場に出てきて、『歌唱中国』を歌うだろうね。んで、司会が大声で「偉大な勝利だ、奇跡だ」と叫ぶんだ。


 記事ではなく微博のつぶやきを転載したという体裁も駆使して、鉄道部批判を展開。

2011073107.jpg

 2011年第29号「死亡高速鉄道」(2011/7/27 南都週刊)
http://www.nbweekly.com/news/special/201107/26941.aspx
 南方都市報を抱える南方報業メディアグループは、傘下の雑誌南方週末、南都週刊でも事故を特集を組んでいます。

 高速鉄道の初歩的知識から、事件後に湧いた様々な疑問に迫る南都週刊の特集号は、是非手にとって読みたい内容になっています。

 列車事故モノのパニック映画
http://epaper.bjnews.com.cn/html/2011-07/29/content_258724.htm?div=-1
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 新京報はこの時期に『新幹線大爆発』と『カサンドラクロス』を紹介するという意味深な記事を配信。

 ただしこれは禁令が出される前日29日の記事です。こういう遊びが出来たのも29日まで。禁令後にほとんどのメディアが(経営など理由はあるにせよ)綺麗に日和ったのと対照的に、この二誌がしつこく報道を続けている姿勢は当然評価されるべきですが、なぜ続行できるのでしょうか。

 1つには経営陣の覚悟でしょう。記者達を食わして行かなければならない、苦しい立場でありながら、報道続行を決意したわけです。体制批判記事を書いた記者が襲われたり殺されたりするような新聞社に入社しようとする記者も、覚悟の上でそういう選択を支持するのだと思います。

 もう1つは南方や財経が禁令を無視しても、停刊処分を受けさせないような後ろ盾がいるのではないでしょうか。後ろ盾の存在があってこそ、経営陣も強気に出られるのだと思います。これといって後ろ盾の心当たりがあるわけではありませんが、社としての覚悟だけでは乗り切れないはずです。

 今回の事件で、中国人記者の当局への怒りは並々ならないほどにまて高まっていると感じました。社としては日和らざるを得なかったにしても、一時的にでもこれほど多くの新聞が反旗を翻したわけですが、これまでの様々な事件、事故を「不讓報」(報道させない)当局に対する鬱憤が相当蓄積されていたのでしょう。それは発禁にしても消えるわけではありません。

 一部の遺族が当局と合意に達したものの、依然として駅で抗議活動が続けられていますが、仮に抗議活動が収束しても、記者たちの抗議とは別のものと分けて考える必要がありそうです。

 それにしても、中国にいて実際に紙面を手にとって読めないのが歯がゆいですね。続きを読む
posted by aquarelliste at 20:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 高速鉄道事故 | 更新情報をチェックする

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